路地広場 の つくりかた

ROJI-JI の 広場

D-3.供給者、住人、それぞれの視点からの「まちづくり」とは?


■ 新規の住宅地開発は多くの場合、供給者側が企業のルールに沿って企画し、住人に引き渡すというプロセスをたどります。
そこには当然まちづくりに対する思惑の違いもあり、住民側から見て理想的な住環境が取得できないかもしれません。逆に供給者側がいくら先進的な企画をしたとしても、需要がついてこない場合だってあります。

改めて両者の住まいに対する思いを整理することで、より良い住環境開発の融和点を探ってみます。

1.供給者側からの住宅地づくりの現実


①市場調査という商品開発手法

供給者側にとって、住宅地開発とは「商品」を作ることです。
宅地分譲と言われる土地販売は宅地そのものの魅力を作り商品化することであり、建売分譲と言われる土地建物の販売は建物を含めた商品を開発することになります。建築条件付き分譲というのも商品化のひとつの方法です。

たとえば、素材で販売するのか、料理の下ごしらえで売るのか、あるいは、出来上がった料理を買ってもらいたいのか。・・・と言ってしまえば身も蓋もありませんが。
そのように、供給者側から考えれば如何に魅力ある商品として、また購入しやすい形態で、需要者(=消費者)に訴求していくかを考えることは、一般の商品開発となんら変わりません。

②この段階で住宅地の方向性が決められて行く

市場を分析し、需要動向を推測し、的確な商品を作ることが企業の目的となります。特に市場調査によって需要を的確につかんでおくことはとても大事なことです。
住環境は、交通の便、日常的な買い物の便、教育施設の良し悪し、医療施設の充実、自然環境の有無、という日常的に必要な欲求を満たしてくれる環境がどの程度整っているかで決まってきます。その地域がどういった地域イメージを持つのかを把握しておくことも重要な市場調査のひとつです。

需要者層を見極め、さらに需要の掘り起こしにより商品を開発し販売方法を決めていかないと、的外れな企画で終わってしまいます。

③ユーザーの選別と価格帯の想定

市場性の検討により、計画地域での相場感から販売価格帯を想定できます。
これと、素地取得時の価格、金利、税金、経費などの原価に利益を考慮し、土地建物の規模や道路、建物、外構のつくりこみ予算が決定されていきます。販売価格帯の枠決めにより商品取得可能な購買層が絞られ、ユーザーの選別(=消費者層の組み分け)が行われることになります。

④求められる住宅地イメージ

地域の環境イメージが相場観を左右することになりますが、この時点で、住宅地イメージは商品総額の上限を規定するだけではなく、ユーザーイメージ(=消費者像)を想定し、商品の付加価値(=商品グレード)をも規定することになります。

⑤住宅地の魅力付けの工夫

想定したユーザーイメージを基に商品のグレード感が要求されます。
周辺環境の優劣は動かすことができませんから住宅地そのものの魅力付けを考えないと商品にはなりません。多くの場合、最小限の事業予算で高付加価値の魅力付けが必要になります。

開発規模による魅力付けの限界はありますが、道路計画、区画割り計画、利便施設計画などの土地利用計画、無電柱化を含む建柱計画、あるいは、建築計画や外構計画により住宅地の魅力付けが行われます。

⑥時代性の挿入

商品の魅力付けは、時代性を囲い込むことも必要になります。
最近では、エコロジ—重視のライフスタイルやCO2排出規制の先取りで、ソーラーパネルやオール電化計画、場合によっては先行植栽計画などの時代に合わせた魅力付けをアピールしていきます。

また、生物多様性の観点から、如何に自然や生態系への配慮がなされているかということも魅力付けには欠かせなくなってきました。

⑦価値観の違う人々の整合性を図ることの苦慮

特に最近のライフスタイルの多様性は、食文化やファッションだけでなく、住まいの文化にも大きく影響しています。
少子高齢化社会における家族像の変化、結婚観、子供の教育方針、社会生活の中での個人の価値観の変化、等々による住生活の多様化、など、様々な要因が挙げられます。       

こうしたことが時代のトレンドとして大きく取り上げられた結果、住宅の持つ普遍的な価値、すなわち家族の拠り所としての住まい、自己のアイデンティティーを育むための居場所という部分が、一見不要になってしまったかのように勘違いされがちです。しかし、実はこのようなベーシックな部分こそが住文化の底流では大きな基盤になっていることを忘れてはいけません。

こうした多様性と普遍性のある価値観を持つそれぞれのユーザー(=需要者=消費者)に満足してもらう商品を開発していかなくてはいけないわけです。

⑧落とし穴

こうした住宅地開発で供給者側が注意しなければならないことは、供給者側の独りよがりの商品になっていないか、ということです。

商品の魅力付けのために、時代性やトレンドを追いかけるあまり、風土や地域環境、地域文化とそぐわない全国一律のまちなみを提供しがちです。
また、過多な装飾や過大すぎるおまけ付きスペックを用意してしまうこともあります。

逆に、事業予算の中で収益重視に過剰に傾くことで、工夫のない貧弱で安易な計画をしてしまう恐れがあります。

⑨販売後のフォローが住宅地の価値を高める

住宅地を供給できて資金が回収できればそれでおしまい、と考える供給者がまだまだ多いことも問題です。住宅地を「商品」と考えれば当然そうなります。
ただ住人は、新しい住宅地でどうやって維持管理しコミュニティを作り上げていくかを模索していくわけですが、初めて顔を合わせる住人同士としてはなかなかうまく事が運ばないケースが多いはずです。
その場合、コミュニティ形成が軌道に乗るまで供給者側がフォローしていくことが必要になってくるわけです。

⑩いい関係を持続させることが次の事業機会を生む

コミュニティ形成を手助けする供給者側のフォローがあれば、住宅地が良好な環境として維持されていくこともスムーズにいきやすい。
そして、住人との継続した関係が図られることで後々、リフォームや買い替えなどの新たな事業機会が生まれてくるはずです。

ただ多くの場合はクレームを訴えられることを嫌って、そうしたフォローがなおざりになってしまっていることが多いのも現実です。



2.住人の側からのまちづくり視点


①住宅地の購入動機

購入動機=地域環境要素 x 住宅地内の魅力要素 x 価格要素

需要者(=ユーザー)がその住宅地を購入するかどうかは、交通網、商業施設、教育施設、医療施設、自然環境などの地域環境(第1義要素)と、住宅地内の魅力(第2義要素)が揃い、購入価格面(価格要素)が満足できるかどうかで決定されます。

それらの要素のうち、何を優先するかは需要者それぞれの考え方になりますが、住宅地購入の大きな動機は“出会い”にあるといえます。
その住宅地に一歩入った時の第一印象は、購入を決断するに際してとても大事になります。

もちろん、第一印象が住んでみたい住宅地なのか、魅力には乏しいが他の要素(第1義要素と価格帯)を優先して我慢すべきと思うか、の違いはありますが。

②住環境としての住み心地、魅力、安全性

需要者(=ユーザー)は新しい環境に対し、住み心地の良さはもちろん、日々の楽しみ、生活の場への魅力を期待します。
子供たちの遊び場や通学路は交通の安全が確保されているか、防犯上問題はないか、充分な緑があるか、まちなみが美しいか、楽しく散策できる道はあるか、など生活上不可欠な要素を意識してチェックするわけです。

第一印象の本当の良さは、そここそにちりばめられた魅力的な仕掛けと、それらが相まっての住宅地全体が醸し出す雰囲気にあるといえます。
ただし、それらの魅力の多くは生活を始めてから気が付いていくものなのですが。

③「住人」としての意識付け

住宅地を取得した時点で、需要者は「住人」としての視点に切り替わり、新しいご近所づきあい、コミュニティを意識するようになります。

住人にとっては、取得した住宅地がこれからの生活基盤を委ねることになるわけですから「商品」以上の意味を持つものです。

④資産価値の評価

住み心地の良し悪しは、第一義要素の交通手段や学校、日常の買い物、医療手段に関してストレスが少ないということに負うことが大きいのですが、住宅地そのものの居住性や、資産価値の評価は、上記②の住環境としての住み心地が良いほど比例して高まります。何より美しいまちなみがどのくらい手入れがなされて維持されているかが評価の対象となります。

⑤維持管理しやすさだけを優先すると

良い環境の住宅地は評価が高まるといっても、住人にとって樹木や生垣、草花などの手入れは、枝の選定、落ち葉掃き、植え替え、施肥、害虫駆除など手間も費用もかかることです。そのため、住宅地の庭は緑のスペースが減らされがちです。
また、自宅以外の部分の公園や緑道の緑などは自治体に移管し、維持管理は自治体がやってくれるものだ、という思い込みがあります。   

⑥自治体の予算も苦しい。その結果・・・

ただ、自治体にとっても維持管理に関わる予算は厳しいものがありますから最小限の費用で管理できるように考えます。

新たに植える樹木は小さいものや成長しにくいものにしたり、本数を減らしたり。
植えたものは必要以上に枝を刈込み、剪定手間を減らそうとします。
道路沿いに電柱と見間違ってしまいそうな棒のようなに並んだ並木の姿はよく目にするところですが悲惨です。

緑だけでなく、床の仕上げも補修が容易で費用の安いものを優先して舗装しがちです。

住民と自治体の管理の押し付け合いが、ますます住宅地としての面白みを失わせることになります。

⑦まちを美しくしたい

一方、住人として、まちを楽しく、美しくしたいというのも願いです。
「草花を増やしたい。」
「新緑、紅葉、花の時期ごとの美しい彩りや香りが楽しみ。」
「そうした四季を感じながら、落ち葉掃きや草花の手入れを通して
御近所の方とのコミュニケーションがとれることが何より嬉しい。」 
「公共の公園や緑道であっても同じように綺麗であったらいいのに。」
・・・と思っている住人も多いはずです。

ただ、多様性のある住人の価値観をまとめ、良好な環境として継続的に維持管理していくにはどのようにしたらよいか、ためらっている方が多いのではないでしょうか。

⑧自分たちのまちは、自分たちで綺麗にする

公園や道路の並木などの植栽管理を、自治体にだけ期待しても無理な話です。
まちの景観を左右する大きく成長した高木だけ自治体に維持管理してもらい、四季を楽しむ低木や草花はすべて住民側が維持管理していくことも一つの方法です。
この場合の維持管理予算は住民が作る管理組合費による場合と、自治体が支援するボランティア活動による場合もあります。

最近ではこのように、全体的なまちの運営を通して、身近なところは自分たちで綺麗にしよう、というタウンマネジメントの考え方も受け入れられるようになってきました。

ただしこの考え方を今後もっと定着させるとしたら、環境維持に関しての税制面での配慮が必要になります。
 

3.せめぎあいの中でのまちなみ設計

需要と供給の幸福な合致
ROJIのまちづくりのスタンスは、住宅地を商品と見なすことは是としながらも、単なる資産形成だけに価値を置くのではなく、暮らしの価値として捉えることで環境価値を高めていこうというところにあります。 

供給者側にとって住宅地づくりの事業を成功させ、それが新たな価値を生み新たな事業として継続することができること。

また、需要者側から見れば満足な環境を得ることができ、それを良好なコミュニティ環境として維持できていくこと。

こうした双方の幸福な合致を目標として計画することが、ROJIの歩みであり、目指すところとなります。



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